今回は梅澤先生のコラムです。参考資料であるLec4.pdf および Lec4-1.pdf は、授業支援システムに掲載しました。(中尾)

1. 金属の中の鉄

地球に存在する化学元素の4分の3は「金属」だ。鉄はその中で最も量が多い金属であり、合金化に見られるように他の化学元素と融和する、優れた「親和力」を持っている。また、加熱・冷却によってさまざまな結晶組織に変化させることで、材料としての特性を変幻自在に操ることができる稀有な金属でもある。

結晶構造や電子の動きによって異なる金属の特性を見ながら、鉄の特徴と可能性を紹介する。

 

2. 結晶格子がさまざまに変化する珍しい金属「鉄」

鉄の結晶構造でもある「体心立方格子」は隙間が多い。何故、「体心立方格子」が生まれるのだろうか。周期表の中間に位置する遷移金属の「体心立方格子」では電子が回る「d軌道」の影響によって結晶構造が決まる。「d軌道」は5種類あり、それぞれの軌道には2個ずつ電子が回っている。その5つのd軌道のうち、3種類が「体心立方格子」の原子結合を促す性質を持つ。例えば、鉄の近くのバナジウムはその3つのd軌道だけを持つため、結晶構造が「体心立方格子」となる。電子の海に浮かぶ金属原子(イオン)は基本的に他のどの原子とも結び付くことができるが、電子軌道の方向性によって原子が結び付く「場所」が決まるため、このような特殊な結晶格子が生まれる。3つのd軌道の影響力が強い「体心立方格子」は、原子の位置を特定する力と原子同士を結び付ける力が大きい結果、原子同士が結び付く方向性が限定されるとともに、材質も硬くなる。一般に、「体心立方格子」を持つバナジウム、モリブデン、タングステンの原子間距離は短く曲線の谷が深いが、これは原子同士を引き離すための力(凝集エネルギー)が高く、硬いことを意味している。

遷移金属の結晶構造を「周期表」で見ると、Yなどが始まる5周期目、6周期目3族より左から、「最密六方構造」「体心立方格子」「最密六方構造」「面心立方格子」の順番に並んでおり、これが遷移金属の一つの特徴だと考えられている。この流れで考えると、4周期目にある「鉄」は本来、「最密六方構造」や「面心立方格子」であってもいいはずだ。

しかし鉄は、常温から912℃までは「体心立方格子」(α鉄)で、それを超えると「面心立方格子」(γ鉄)になり、さらに1,394℃まで温度が上がると再び「体心立方格子」になる。固体状態での温度変化で結晶格子を変える(固相変態)金属はもともと少ないが、結晶格子が2度も変化する金属はさらに稀有だ。

その変態の流れを説明する。鉄は温度上昇に伴って原子の振動が大きくなり膨張していく。912℃の段階で結合が硬く特定方向に突っ張っていた体心立方格子が解放され、原子の充填率が高い面心立方格子になるため、変態の瞬間に一時的に体積が減少する。氷が水になると体積が減る現象と原理は同じだ。そして1,394℃まで上がると、結晶格子の熱運動が激しくなり、原子間の隙間が必要になるため再び体心立方格子に戻る。

また、鉄は電子が回る向き(スピン)が揃っているため磁石になりやすい(強磁性)が、温度が770℃まで上がるとその向きがバラバラになり磁石ではなくなる。鉄の特殊な変態は、このような原子間の磁気的結合力の変化によっても誘発されると考えられている。

 

[このコラムからの課題]

高温加熱後、冷却された鉄は、面心立方格子→体心立方格子へと相変態する。原子の充填密度が低い体心立方格子が安定相であることを利用して、Fe-C合金である鋼は、侵入型固溶原子のCをFe格子間に留め、強化される。特に、急速冷却(焼入れ)によりマルテンサイト変態を生じると硬くなる。日本刀などの刃物における刃の焼入れが代表的である。鋼のマルテンサイト変態の特徴について調べてみよう。