極限材料工学研究室の大野と申します。今年4月より本学でお世話になっております。
私の専門分野は「原子力材料」です。出身は東北大学で、元々原子力の分野に携わることを希望していたのですが、入試で合格できたのがマテリアル・開発系でしたので、学部生時代は主に金属材料を学びました。東北大の金属材料研究所には原子力材料工学部門があり、大学院生からそちらの研究室に進学して博士まで学びました。就職してから現在まで、主に原子力分野で使用される金属材料の研究をしています。
私の研究室では極限環境・過酷環境で必要とされる材料の研究を展開しています。原子炉の炉心は、現行の軽水炉でも300℃以上、高速炉では~700℃、次世代の高効率で安全性を高めた新型炉の一部は1000℃超の高温で運転することが想定されています。構造材として最も広く一般的に用いられている鉄の融点は約1500℃で、融点に近づくほど材料は柔らかくなりますが、運転中は強度が保たれなくては使えません。また、冷却材として軽水炉の水環境、新型炉では液体金属を使用する環境もあり、高温で材料がこれらの液体に晒されると表面から酸化や腐食が進行します。さらに原子炉の炉心では核分裂(や核融合・・・核融合炉の場合)反応によって中性子が絶え間なく産み出されており、固い金属材料であっても中性子の照射を受けると材料は劣化していきます。高温での強度・耐酸化/耐腐食性・耐照射性、そして材料を生産するときの加工などのし易さ・・・極限過酷環境では達成・両立させなければならない性質がたくさんあり、全てを満たす材料を創り上げるのはハードルが非常に高いです。
以上の要求される性質をすべて満たせる可能性がある夢の材料として、酸化物分散強化(ODS)合金が存在します。金属や合金の粉末と酸化物(イットリアなど)の粉末を混ぜ合わせて、硬いボールでかき回すことで衝撃を与えて機械的に捏ねると、本来相容れない金属と酸化物が原子レベルで捏ね合わさります。この工程はメカニカルアロイング(MA)と呼ばれています。MAした合金&酸化物の粉末を高温で押し焼き固めると、合金の中に数nm~十数nmの微細な酸化物粒子が形成されます。こうして出来たナノ酸化物粒子は合金中に非常に緻密に分散しています。図はフェライト鋼中に分散した酸化物粒子の透過電子顕微鏡像ですが、FeCrAl合金中に~1023個/m3程度のナノ酸化物粒子が含まれています。酸化物は融点が概ね2000℃以上で、原子炉の運転温度程度では非常に安定に存在します。高温において金属の変形の元である転位の動きをピン止めすることで、材料の変形を防いでくれます。さらに中性子照射されても壊れにくく、合金母相の劣化も防いでくれます。このようなナノ酸化物粒子を高温酸化に耐性のあるFeCrAl系の合金に緻密に分散させると、高温強度・耐酸化/耐腐食性・耐照射性のすべてを満たす夢の材料ができます。
現在私の研究室では、FeCrAl-ODS合金のさまざまな特性を明らかにすることに注力しています。ほかにも極限過酷環境をキーワードに様々な材料の研究に取り組む予定です。国内外の大学や企業の方々と一緒に頑張っていこうと思います。
図 FeCrAl合金中に形成されたナノ酸化物粒子