前半の総論部分を担当する中尾です。

この授業の本題ともなる「材料」とは、どのような意味を持つことばでしょう。辞書を参照すると、材料の意味は、

“① ある物を作るとき、もととして用いるもの。資材。 「建築-」 「工作の-」 → 原料

② 研究・調査などのために取り扱うもの。 「アサガオを研究-とする」

③ 芸術作品などの題材。 「小説の-をさがす」

④ ある判断などをするためのもととなるもの。 「反論の-」 「格好の攻撃-となる」

⑤ 取引で、相場を動かす要因。 「好-」 「悪-」”

[三省堂 大辞林 第三版]

とあります。我々が注目している意味としては、①の内容となります。さらに同様の意味を有する2つのことば「材料」と「原料」の違いとは何でしょうか。この違いは、最終製品になったときに、元になった「材料」、「原料」を推測、判断できるか否かです。言い換えれば、「材料」は最終製品になっても、元々もっていた機能(例えば、強度や電気導電率など)がそのままであり、「原料」はそれらの機能が変化していると言い換えることが可能です。

このため、「材料」を議論する上で、機能に着目することが重要です。

では、材料の機能とは、どこから発現するのでしょう。いろいろな考え方があると思います。一般的には、各粒子(原子、分子など)の特性と考えられています。しかし、僕は、粒子の特性というより、その粒子を構成する粒子と粒子(例えば、原子であれば、原子核と軌道電子、分子であれば、原子と原子など。下図に参照してください。)の間の相互関係に起因していると理解しています。例えば、電気伝導性を決定するのは、原子と原子の相互関係である化学結合です。高校の化学の授業でも習ったと思いますが、金属原子同士で構成される分子(無機化合物の場合は、結晶になることがほとんど)は、金属結合で原子同士が相互関係を結びます。金属結合とは、各原子が陽イオンとなり、その際に過剰な電子を分子全体で保持し、その電子が分子内を自由に飛び回ることにより、静電気力が発生し、プラスに帯電している粒子である陽イオン同士が拘束されています。この分子内を飛び回る電子を自由電子と呼び、電気を流すためのキャリアとなり、いわゆる「電子伝導性」という機能を生み出します。これと同様に、原子核と軌道電子の相互関係、分子と分子の相互関係などにより機能が決定します。

強度や剛性といった「力学機能」もしくは「機械特性」は材料の機能の中でも、材料の価値を決める根幹的な機能となります。例えば、高温超電導が可能な材料であっても、すぐに壊れてしまう材料では、人間が使いこなすことができないからです。このため、たとえ優れた電気特性や光学特性を有していたとしても、最低限の力学機能を有していなければ、人間が活用することができないからです。

「力学機能」や「機械特性」を予測したり、制御するためには、分子と分子(金属やセラミックスの場合は、結晶と結晶)から成る「(金属)組織」を作りこみ、分子と分子の相互関係を制御することが必要です。これには、単に化学反応を操作して新たな物質をつくるだけでなく、凝固や凝縮といった同じ物質を固めるプロセスを操作することで、「組織」を作りこむことができるようになります。

[このコラムからの課題]

・「材料」ということばの定義、および類義語、反義語を調べ、それらのことばを分類せよ。

・「力学機能」、「機械特性」に含まれる性質(物性)を調べ、それらの物性の特徴をまとめよ。