材料学入門「固体材料の電子物性」を担当する中津川です。

固体材料を電気伝導性の観点で分類すると、金属・半導体・絶縁体の三種類に分類されます。金属は、銅(Cu)・金(Au)・アルミニウム(Al)・鉄(Fe)に代表される電気伝導性の良い固体材料で、電気抵抗率は室温でそれぞれ1.7μΩcm・2.2μΩcm・2.8μΩcm・9.6μΩcmを示します。絶縁体は電気伝導性の悪い固体材料で、例えばガラス(SiO2)の電気抵抗率は室温で10GΩcmから100PΩcmを示します。ここでG=109・P=1015ですので、ガラスは金属よりも16桁から23桁程度高い電気抵抗を示す非常に電気の流れにくい固体材料であることが分かります。半導体は金属と絶縁体の中間的な電気伝導性を示す固体材料で、例えばシリコン(Si)に代表される半導体材料は室温で1mΩcmから1MΩcmの電気抵抗率を示します。一方、電気抵抗がゼロになる超伝導という性質を示す固体材料もあります。例えば、金属の水銀(Hg)は4K(-269℃)以下、金属の鉛(Pb)は7K(-266℃)以下、半導体の銅酸化物(YBa2Cu3O7)は90K(-183K)以下で超伝導を示し電気抵抗がゼロになります。

固体材料の電気伝導を担う主役は、内殻電子や原子間の化学結合を担っている電子以外の比較的自由に固体中を動ける電子や正孔です。ここで電子とは-1.6×10-19Cの電荷を持った質量約9.1×10-31kgの素粒子で、正孔とは+1.6×10-19Cの電荷を持った質量約9.1×10-31kgの素粒子です。一般に、電気伝導は単位体積当たりの電荷の流れ(電流密度)で表されるので、電子の電流密度も正孔の電流密度も、電荷に単位体積当たりの粒子の速度を掛けることによって定義されます。電荷の流れ(速度)は何によって生じるかというと、一つは電場によって生じます。固体材料に電池を銅線で繋げると、固体材料中には、電池の+極から-極の方向に電位勾配(電界)が生じるので、電子は電界と逆向きに力を受け-極から+極の方向に電界に比例した速度で流れます。正孔は電界と同じ向きに力を受けるので+極から-極の方向に電界に比例した速度で流れます。これらの速度はドリフト速度と呼ばれ、比例定数は移動度(単位はm2V-1s-1)です。もう一つは濃度差によって生じます。固体材料中に濃度勾配があれば、濃度の高い方から低い方へ電子や正孔は濃度勾配に比例した単位体積当たりの速度で流れます。これらの速度は拡散速度と呼ばれ、比例定数は拡散係数(単位はm2s-1)です。固体材料の電気伝導は、電子あるいは正孔がドリフトあるいは拡散することより生じています。

今、簡単の為、拡散電流は無視して、固体材料中の電子のドリフト電流のみを考慮して、電流が流れる向き(電界の方向)と逆向きに電子が運動していると仮定すると、電子は電界と逆向きに力を受けるので、ニュートンの第二法則に従えば、電子は力が作用する方向に等加速度運動しなければなりません。しかし、固体材料中の電子は電界に比例したドリフト速度(比例定数は移動度)で等速度運動しています。これは電界から受ける力と逆向きの力が存在し両者が釣り合っていることを意味しています。その力の正体は、電子が固体中を運動する際、固体中の欠陥や不純物あるいは固体の格子振動から受ける抵抗力です。その抵抗力を総称して電子の運動量÷緩和時間(約10フェムト秒)で表すと、電界から受ける力との釣り合いより、ドリフト速度が電界に比例する関係が導かれます。その時の比例定数が移動度ですので、移動度は電子の電荷×緩和時間÷電子の質量として定義されます。そうすると、電子の電流密度(単位体積当たりの電荷の流れ)は電子の電荷×電子密度×ドリフト速度で定義されるので、電子の電流密度も電界に比例することが分かります。この時の比例定数が電気伝導率(単位はΩ-1-1)で、ドリフト速度に移動度×電界を代入することにより、電気伝導率は電子の電荷×電子密度×移動度で定義されることが導かれます。また、電気抵抗率は電気伝導率の逆数ですので、移動度に電子の電荷×緩和時間÷電子の質量を代入すると、電気抵抗率は緩和時間の逆数(約1014s-1)に比例することが導かれます。この緩和時間の逆数は電子の運動を妨げる要因(欠陥や不純物あるいは格子振動)によって妨げられる回数が1秒間に約1014回であることを意味しています。

固体材料の散乱回数は温度が増加するに従って、温度の増加に比例して散乱回数が増加するので、特に金属の電気抵抗率は温度の増加に比例して増加する温度依存性を示します。半導体の場合は、散乱回数の温度に比例した増加よりも電子密度の温度増加に伴う指数関数的な増加の方が顕著になるので、半導体の電気抵抗率は温度の増加に従って指数関数的に減少する温度依存性を示します。一方、超伝導の場合は、電子が2個ペア(クーパーペア)を組むことにより格子振動などによる妨げが消滅する為、散乱回数がゼロとなり電気抵抗がゼロとなります。また、固体材料の形状を断面積×長さの直方体とすると、材料に流れる電流は電流密度×断面積、材料に掛かる電圧は電界×長さと定義できるので、電流密度が電界に比例(比例定数は電気伝導率)する関係からオームの法則(例えば、電流=電圧÷抵抗)が自動的に導かれます。

[このコラムからの課題]

解答は「固体材料の電子物性」の授業後に示します。

  • 固体材料を金属・半導体・絶縁体に分類する基準を調べ、図示してまとめなさい。
  • 電気抵抗率が散乱回数に比例することを、数式を用いて示しなさい。
  • 電流密度が電界に比例する関係式から、オームの法則を導きなさい。
  • 室温での銅(Cu)の電気抵抗率7μΩcm、電子の質量9.1×10-31kg、電子の電荷-1.6×10-19C、銅の電子密度8.5×1022cm-3より、室温での銅の散乱回数を見積もりなさい。