皆さん、こんにちは。長谷川です。授業では、「高温変形、複合材料」を担当します。今回のコラムでは、材料と温度と強度の関係について紹介したいと思います。

まずは材料と温度との関係から。人間や動物は、寒いとちぢこまり、暑いと大の字に伸びで寝ることが多いと思いますが(私だけ?)、材料も、寒いと縮み、暑いと伸びます。もちろん、理由は違います。皆さんもこれまでに、「鉄道のレールが猛暑日にゆがんでしまって鉄道が運行できなくなってしまった。」という報道を見聞きしたことがあると思います。レールは鉄製ですので気温の上昇によって伸び、伸びることでレールとレールの間の隙間が閉じてしまい、それでもさらにレールが伸びたことによってゆがんだと考えられます。

ところで、本当に材料は伸び縮みするのでしょうか?だって、皆さん、冬と夏で金属製の自動車の大きさが変わっているところなんて、見たことありますか?ありませんよね。通常、肉眼では伸びを検出できませんが、材料に熱を加えれば、伸びることは知られています。以下の動画を見ると、確かに材料は加熱することで伸びるということが確認できると思います。

https://www.nims.go.jp/chikara/index.html#movie10

さすがにわかりやすい動画だったと思います。確かにアルミニウムという金属材料が伸びていましたね!

このように、温度が上昇したときに材料の長さや体積が増加する現象を「熱膨張」と言います。では、どうして温度が上昇することで材料は伸びるのでしょうか?材料に熱を加えると、原子が振動するという話を聞いたことがあるかもしれませんが、それが関係しているのでしょうか?この点を考えてみたいと思います。

図1は、2原子間のポテンシャルエネルギーと絶対零度T0でのA原子とB原子の配置を示したものです。A原子が原点の位置に存在し固定されているとする時、B原子は原子間ポテンシャルエネルギーの最も低いUT0の位置にきています。この時の原子間距離をr0とします。B原子をA原子に少し近づけると、B原子のエネルギーが高くなり、斥力が働くことでr0の位置に戻ってきます。また、少し遠ざけてもB原子のエネルギーが高くなり、引力が働くことでr0の位置に戻ります。これは、あたかもA原子とB原子が1つのバネでつながっているようです。

このような状況から、材料が温度T1に上昇したと考えます。温度T1では、B原子は原子間ポテンシャルUT1までのエネルギーを持つことができ、B原子は熱振動によりA原子に近づいたり、遠ざかったりします。したがって、図1より温度T1での平均原子間距離はr1となります。この距離はr0よりも若干大きくなります。材料の温度がさらに高くなり温度T2となると、ポテンシャルの形状から平均原子間距離はr2となり、r0やr1よりも大きくなります。このように、熱を加えることによって原子が振動し、ポテンシャルの形状によって平均原子間距離が大きくなるために材料が熱膨張することがわかって頂けたかと思います。

次に、温度と強度の関係について考えてみたいと思います。強度にもいろいろありますが、材料の変形のしにくさの指標である、弾性率(ヤング率)について考えてみたいと思います。これは、A原子とB原子が1つのバネでつながっているとした時のバネ定数に対応し、原子間に作用する力のr0での傾きです。変形のしにくさは、バネ定数が大きいバネにおいて力を加えてもバネが縮みにくいのとイメージは同じです。

図2は2原子間に作用する力と原子間距離との関係を示したものです。この図は、すでに中尾先生のコラムに出てきた図と同じで、図中のfcは、原子間の結合を切断する力です。原子間に作用する力f(r)は、図1での原子間ポテンシャルエネルギーUをrで微分することにより得ることができます。まず、原子間ポテンシャルエネルギーUですが、その形状は、

 (1)

として表すことができます。ここで、A, B, m, nは定数であり、m < nとなっています。したがって、原子間に作用する力f(r)は、

(2)

と表すことができます。このように、原子間に作用する力は第1項目が引力、第2項目が斥力であり、両者の和として与えられます。A原子とB原子間のバネ定数に対応する弾性率は、この力のr0の位置における傾きですので、傾きをEとすると、

 (3)

と与えることができます。このことから、弾性率は原子間距離が小さいほど、高くなることがわかります。つまり、原子間の結合が強い材料ほど、弾性率が高くなることが想像できます。

それでは、温度と弾性率の関係は、どのように読み取れるでしょうか?温度が高くなるほど平均原子間距離が大きくなることは話しました。このことから、式(3)において温度が上昇しても他の定数が変わらず、原子間距離r0が大きくなるならば、温度が高くなるほど材料の弾性率は低くなることが予想できると思います。実際、温度が高くなるほど材料の弾性率が低くなることが知られています。

他の種類の強度と温度の関係については、いずれ、授業で紹介していきたいと思います。

このコラムからの課題

温度の変化によって、材料の力学特性や他の機能特性も変化します。温度の違いにより変化する材料の特性について、どのような特性があるかを調べ、複数挙げてみましょう。また、挙げた特性の内の1つを選び、その理由について考えたり、調べたりしてみましょう。