皆さん、ご入学おめでとうございます。准教授の前野です。金属を変形させて加工する塑性加工の研究を行っており、皆さんには加工に関連する授業を主に担っております。今回はこのコラムを通して、皆さんに考えるきっかけや、興味を持つきっかけが提供できればと思います。

さて、外出自粛要請が発表され、大変な渦中にありながらも、受験などが一段落ついて時間に余裕があることでしょう。こんな時はプレッシャーもなく、自由な想像を膨らませることができると思います。ちょっと身の回りの物を手に取って、じっくりと10分くらい眺めてみましょう。いろんなことが見えてきます。でも、ただ10分眺めるのは苦痛ですね。ここでは「なぜその材料が使われているのか?」「なぜその形なのか?」という観点で考えるケーススタディをしてみましょう。

例えば鉛筆です。文字や絵を書く道具です。芯が中心にあり木に包まれています。そして木に塗装が施されています。では、なぜ芯には黒煙が使われているのでしょうか?そして、その芯はなぜ、木に包まれているんでしょうか?

まず、鉛筆の役割を知っている範囲で仮定します。

と、いったところでしょうか。他にもあるかもしれません。ここで大事なのは、知っている範囲で仮定しておくことです。考えた先に新たな役割に気づけるかもしれません。

芯を考えてみます。鉛筆の芯は黒鉛です。鉛筆の役割は眼で見てわかる線を描くのが目的です。墨と筆は古来より使われており、濃淡や太さの変化は美しいですが、皆さんもご存知の通り、水や筆の準備が面倒です。しかし、鉛筆ではそのような煩わしい準備が要らず、手にしたらすぐに書くことが出来ます。ここで、新しい目的に気づきます。「表現の自由度よりも簡単に取扱えること」です。ではなぜ、黒鉛が使われるのでしょう。多くの場合、紙は白いものが使われるので、黒はハッキリとして都合がよいです。黒い材料は他にもありますが、黒鉛が使われる他の理由は何でしょう?新しい疑問として置いておきましょう。

次は「なぜ木に包まれているのか」です。もしも、鉛筆が芯だけだった場合を考えてみましょう。細くて持ちにくいし、折れてしまいます。芯が太ければ持ちやすく折れないかもしれませんが、先端が削れたら細い字が書きにくいです。そもそも、いずれにしても手や周りが汚れます。つまり木で包むことで、細い芯を採用しても芯が折れないようにして、周囲を汚さないようにしているのです。また、ここで新しい目的「細い字が継続して描ける」「周囲や手を汚さずに携帯できる」に気づきます。ではなぜ包む材料は木なのでしょうか?これも疑問として置いておきましょう。

このように、鉛筆をじっくり見て、なぜその材料?なぜその形?を考えることで鉛筆の役割がより明確になりました。

また、「黒い材料は他にもあるのに、なぜ黒鉛なのか?」「なぜ包む材料は木なのか?」という疑問も生まれました。これはぜひ皆さんが考えてみてください。

通常、製品を設計する場合はこの逆を行います。製品の目的、役割からそれを満たすための材料を選定します。したがって、製品を設計する場合には材料の知識が重要であり、また、その材料の特性を体系的に明らかにすることは重要です。さらに、適する材料がないと製品は作れませんから、材料の改質・創生はとても重要になります。

さて、今回は道具の役割と材料について考えましたが、材料は物の役割だけでは決まりません。作り方や経済的な観点でも変わってきます。この切り口で考えてみるのも面白いです。身の回りの道具は、何気なく使っていますが、実によく考えられて作られているものばかりです。この機会に色々考えてみてください。

 

[このコラムからの課題]

身の回りの物を取り上げて、色々考察してみよう。正解である必要はありません。つい、インターネットに頼ってしまいたくなるかとは思いますが、まずは調べないでやってみましょう。考える練習です。考えた後に調べて、わかった事をまとめましょう。

以下に幾つかサンプルを例示します。答えは「材料学入門」の授業にて。

鉛筆のキャップです。薄い金属でできています。なぜ金属なんでしょう。どんな金属が使われているのでしょうか?どうやって作ってるんでしょうか?

ガス缶の底です。どうして金属でできているんでしょうか?縞模様がついているんでしょうか?